システム開発費用の妥当はどう判断する?見積もりのチェックポイントをエンジニアが解説

システム開発・導入は高額な投資となるため、限られたリソースを有効に使いながら高品質なシステムを構築するには、開発ベンダーから提示された費用の妥当性を慎重に確認する必要があります。
しかし、実はシステム開発の見積もりは発注側だけでなく、作成する側(開発ベンダー)にとっても難しいものなのです。ですから、要件の範囲や開発期間、必要な人員によって費用は大きく変動するため、双方で認識をすり合わせながら進めることが大切です。
そこで今回は、システム開発費用の相場や内訳の詳細、見積もりの妥当性を確認するためのポイント、開発費用を安く抑えるコツなどを解説します。DX推進やシステム導入を検討している企業の経営者・担当者の方は、発注前にぜひ参考になさってください。
<監修:リトルソフト株式会社 Y.S>
経歴10年のITエンジニア。JavaやNode.jsを中心に、サーバーサイド開発やインフラ構築を担当。プログラミングだけでなく、要件定義からリリース、保守運用まで、開発プロセス全体に携わるフルスタックエンジニアとして活躍中。
DX成功の理由がここにある
「システム化は初めて」というお客様でも、業務効率化や売上向上を実現。
システム開発費用の費用相場と保守運用費用の目安

一般的な業務システムやWebシステムの開発を外部の開発ベンダーに委託する場合、平均的な開発費用は500~800万円程度が相場となっています。これは中規模のシステム開発における目安であり、多くの中小企業が見積もりで目にするであろう金額と言えるでしょう。
ただし、この金額はあくまで「標準的な機能を持つシステム」を想定した場合の相場であり、実際の費用は開発内容によって変わってきます。
金額に幅があるのはなぜ?
費用が変動する主な理由は以下の3点です。
- 開発規模:投入するエンジニアの人数と開発期間
- 実装機能:必要な機能の数と複雑さ
- 開発手法:既存パッケージのカスタマイズorゼロからの構築
たとえば、既存のパッケージシステムを自社向けにカスタマイズする場合は100~300万円程度で済むケースもありますが、完全オーダーメイドのシステムを構築する場合は1000万円を超えることもあります。
システム開発は高額投資 だからこそ費用の妥当性の確認が大切
導入後は保守運用の費用が継続的にかかることになるため、「開発後はこれっきり」というわけにはいきません。一般的に、保守運用費用は開発費の約15%(年間)が目安とされています。 つまり、500万円のシステム開発なら、年間約75万円の保守運用費用が発生する計算です。
中小企業にとっては軽視できない支出となるため、「本当にこの費用で妥当なのか?」という点をしっかり見極める必要があります。
その見積もりは大丈夫?不適切なシステム開発費用で発注した場合のリスク
システム開発を将来への投資と捉え、ある程度の支出を覚悟している経営・マネージメント層の方が多いかもしれませんが、開発ベンダー側の見積もりをしっかり確認せずに発注してしまった場合、思いも寄らないリスクに直面する場合があるため注意が必要です。
予算の大幅超過
まず考えられるのは予算の超過です。中小規模のプロジェクトでも珍しいことではなく、当初見積もりの2倍以上の費用が発生するケースも。特に「一式◯◯万円」といった曖昧な見積もりや、追加費用の発生条件が不明確な場合は開発途中で想定外のコストが次々と発生し、結果的に負担の増大につながります。
また、予備費(開発途中で発生する想定外の費用に備えて確保しておく費用)が見積もりに計上されていない場合はトラブル発生時に対応できず、プロジェクトが中断するリスクが高まります。
要件の妥協・機能削減を余儀なくされる
開発途中で予算が不足し、当初計画していた機能の実装を断念せざるを得なくなるケースもあります。予算不足になることが後から判明して追加費用を巡って開発ベンダーと対立した結果、本来業務効率化のために必要だった機能が削られ、中途半端なシステムになってしまうことがあるのです。
こうなると投資に見合う効果が得られず、現場からは「使いにくい」「期待していたことができない」といった現場の不満につながります。最終的には、システム導入の本来の目的を達成できず、投資対効果(ROI)が大きく損なわれる大変残念な結果となってしまいます。
品質の劣化
見積もりでは「金額が高いかどうか」に目が行きがちですが、安さにも注意が必要です。 費用が極端に低い(格安のシステム開発)場合、開発ベンダーは限られた予算内で納期を守るために必要な工程を省略することがあるからです。
なかでも削られやすいのが「ユーザビリティの検証」と「負荷テスト」。
最低限の機能要件は満たしていても、使い勝手が悪かったり、アクセスが集中したときに動作が不安定になったり……といった問題が起こります。
常識的な開発ベンダーであれば、不具合が残ったまま納品するケースはあまりないと思われますが、最低限の機能要件だけ満たし、使いやすさは二の次という状況になっていることがあります。
契約トラブル
開発ベンダーと契約トラブルを引き起こすリスクもあります。追加費用の支払い、成果物の検収基準に関する認識の齟齬が訴訟に発展することもあるでしょう。
特に、仕様変更時の料金体系や責任範囲が明確でない契約では、一層紛争のリスクが高まります。こうした法的トラブルは金銭的損失に加え、社員の時間・労力を奪うため、直接的にも間接的にも悪影響を及ぼします。
プロジェクトの中止・頓挫
最終的にはプロジェクト自体が中止に追い込まれることも考えられます。
たとえば、開発途中で「当初の見積もりでは完成できない」「追加で数百万円〜数千万円が必要」と判明したとき、企業側が追加予算を用意できなければプロジェクトはそこでストップします。 すでに支払った費用は戻ってきませんし、途中まで作られたシステムも使い物にならないため、投資がすべて無駄になってしまうわけです。
プロジェクトを中止して別のベンダーで一から作り直す手もなくはありませんが、このようなことは社内で「システム化の失敗」という印象が強く残り、今後はDX推進への理解・協力を得られにくくなるでしょう。
システム開発費用の妥当性を判断する第一歩は「内訳を理解すること」

では、システム開発費用の妥当性は見積もりのどこを見て判断すべきなのでしょうか。
それはズバリ、内訳(費用構成)です。
内訳はかかる費用の根拠ですから、ここを細かく見ていけば、「どの作業にどれだけのコストがかかっているのか」「その作業量は妥当か」といった点を具体的に確認できます。 DXを将来への有意義な投資にするためにも、ここでシステム開発費用の内訳について知っておきましょう。
要件定義・設計費用
システム開発の初期段階である要件定義・設計では、「どのようなシステムを作るか(機能・目的)」「どのように動作させるか(構成・仕様)」を具体化します。 この工程の精度が低いと、後工程での修正や仕様変更が増え、コスト増加の原因となります。見積もりでは要件定義や設計に十分な工数が割かれているかを確認しましょう。
開発費用
開発費用は実際にプログラムを実装する作業にかかるコストです。開発者の工数、使用技術、開発環境などによって金額が変動します。
テスト費用
テストはシステムが仕様通りに動作し、バグやセキュリティ上の問題がないかを検証する重要な工程です。
一般的に、テストには開発会社側が行う動作確認(内部テスト)と、実際の利用者が操作して確認するユーザーテスト(受け入れテスト)の2種類があります。内部テストではシステムが仕様通りに動作し、バグやセキュリティ上の問題がないかを検証します。一方、ユーザーテストでは実際にユーザーが画面を操作して使い勝手を確認します。
ユーザーテストでは「やっぱりここはこうしたい」といった追加・変更要望が出ることが一般的です。そのため、こうした軽微な修正に対応できるよう、あらかじめ調整用の予算を確保しておくのが一般的です。
見積もりの内訳を確認する際は、テストの実施範囲や体制、品質基準に加えて、ユーザーテスト後の修正対応をどこまで含むのかを事前にベンダーに確認しておきましょう。
運用・保守費用
システム稼働後にはトラブル対応や機能改善など、継続的な運用・保守が発生します。 しかも、これは一度きりの費用ではなく、中長期的なコストとして計画に含める必要があります。 契約時点で「保守範囲」「対応頻度」「追加費の発生条件」を確認しておくと安心です。
プロジェクト管理・ライセンス費用
プロジェクト管理費用には進捗管理やチーム間の調整など、開発全体を円滑に進めるためのコストが含まれます。
また、開発ツールやライブラリに関しては、ライセンス費用や利用料が発生する場合があるので、見積もりにこれらの費用が含まれているか確認しましょう。重複請求や過剰設定には注意してください。
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システム開発の妥当性を見積もりからチェックする際のポイント

見積もりの金額が妥当かどうかを判断するには、内訳を細かく確認することが大切です。 以下のポイントを押さえて、費用の妥当性を見極めましょう。
エンジニアの単価を見極める
エンジニアの単価は、スキルや経験、担当領域によって大きく異なります。
見積もりの妥当性を判断する際は、提示された前提条件(体制・期間・想定工数やアサイン率)がプロジェクトの内容に見合っているかを確認してください。
人件費はプロジェクト全体のコストに大きく影響するため、これらの前提を十分に検討しましょう。
作業工数の過不足を確認する
見積もりに含まれる作業工数はプロジェクトの規模や複雑さによって大きく変動します。
作業工数が過剰に見積もられていると不必要なコスト増加を引き起こし、逆に不足していると納期遅延や追加費用が発生する可能性があります。そのため、見積もりで提示された工数が、プロジェクトの内容に対して適切かどうかを確認することが重要です。
その際は、どの工程にどの程度の作業時間を割り当てているか、工程ごとのバランスに偏りがないかを確認しましょう。特に複数のエンジニアが関わる場合は、チーム体制や役割分担が明確で、過剰な工数が含まれていないかも確認しておくと安心です。
成果物の範囲を確認する
見積もりに含まれる成果物(納品物)がどこまでかを確認します。納品物には設計書、テスト仕様書、運用マニュアル、ドキュメント一式などがありますが、この内容が曖昧だと、後になって「この資料は別料金」「テスト仕様書は含まれない」といった追加費用トラブルにつながるリスクがあります。
開発前提条件を確認する
システム開発の見積もりは多くの場合、特定の前提条件に基づいて計算されています。
具体的には、使用する技術や開発環境、開発期間、対象とするプラットフォームなどが挙げられますが、ここが不明確だと後から大幅なコスト増加やスケジュールの遅延が発生するリスクが高まるので丁寧に確認したいところです。
また、クライアント側の準備状況やリソースの提供なども前提条件に含まれることが多く、これらも正確に設定されているか慎重に確認する必要があります。
リスク対策の予備費用の有無を確認する
予期しない問題が発生した際に、急激にコストが膨らむ可能性があります。
技術的なリスクやリソース不足、スケジュールの遅延などのリスク要因に対する予備費用が見積もりに組み込まれているかどうかを確認することが重要です。
なお、リスク発生時の対応策や、それに伴う追加費用が発生した場合について、ベンダーと発注者のどちらが責任を負うか、事前に明確にしておくと安心でしょう。
リトルソフトのエンジニアが教えるシステム開発費用を安く抑える具体的な方法

システム開発の費用は、ちょっとした工夫や判断の違いで大きく変わります。 では、品質を保ちながら開発コストを抑えるための具体的なポイントを見ていきましょう。
要件定義を明確にしてムダを省く
まずは要件定義=「システムに求める条件」「システムで何を実現したいのか」を整理し、開発のゴールを決める作業をしっかり行いましょう。
要件定義が不十分なまま開発を進めると、設計や開発の途中で仕様変更や手戻りが発生し、結果としてコストや工期が膨らむリスクがあります。実際、新たに機能を追加する場合よりも、既存の機能に修正を加える方が、影響範囲の調査や再テストが必要となる分、工数が増えやすく、ほかの機能へ影響(いわゆる“デグレード”)を及ぼすリスクが高まるのです。
実際、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)社会基盤センターの「ユーザのための要件定義ガイド 第2版」によれば、システム開発の工期遅延理由の50%以上が要件定義の問題に起因していると報告されています。つまり、初期段階で要件を明確にし、認識のズレを防ぐことが、コスト・スケジュール両面のムダを防ぐ第一歩と言えます。
(参考:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)社会基盤センター「ユーザのための要件定義ガイド 第2版」)
自社で開発できる部分を見極める
IT人材のリソースがある場合はすべての工程を外部に委託するのではなく、自社で対応できる部分は内製することも検討しましょう。
たとえば、基本的なデータ入力やUIデザインの一部、テスト工程の一部など、自社のリソースで十分に対応できる作業は外注せずに、内製してコストを抑えることができます。 社内と外部のリソースを上手に使い分けることでコスト効率の高い開発が実現できるうえ、社内人材のトレーニング・知見の蓄積にもなるでしょう。
このような内製と外注を組み合わせるハイブリッド開発は、中小企業から大手企業まで広く採用されている手法です。
相見積もりを取って価格を比較する
システム開発において、同じ要件でも開発ベンダーによって金額に大きな差がでることは珍しくありません。複数の業者から見積もりを取得し(相見積もり)、価格や提供するサービスの内容を比較・検討しましょう。各業者の価格設定やサービスの違いを明確にし、価格交渉や契約条件でより有利な提案を引き出すことができます。
その際、価格だけでなく、納期やサポート体制、技術力や実績なども比較できれば理想的です。
「大手だから」「有名企業だから」といった理由で相見積もりせず決めてしまうのはおすすめしません。大手SIerでも実際の開発は下請け構造が多く、サービスの質は担当チーム次第だからです。
パッケージソフトやローコード、ノーコードツールを活用する
システム開発をゼロからすべて構築するのではなく、既存のパッケージソフトや開発ツールを活用することも検討しましょう。開発コストと時間を大幅に削減できるからです。
パッケージソフトは特定の業務に特化しており、導入が簡単である点が特徴で、開発時間と費用の節約に繋がります。 オープンソースツールやクラウドサービスを利用すれば、システムの柔軟性を保ちながら費用を抑えられます。
また、ローコードやノーコードの開発プラットフォームも有効です。これらは、プログラミングの高度な知識がなくても視覚的にアプリケーションを作成できるため、短期間での開発が可能です。
Forrester Consultingの調査(2024年、Microsoft委託)によると、Microsoft社のMicrosoft Power Platformというローコード開発基盤を使用することで、従来の開発方法と比較して開発時間を50%短縮でき、初期投資を6ヶ月で回収、3年間で206%のROIを達成できることが確認されています。
(参考:Forrester Consulting "The Total Economic Impact™ of Microsoft Power Apps"(2024))
妥当性を判断できる人材がいない場合は第三者の力を借りる選択肢も
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システム開発費用の妥当性を確認するポイントについて解説してきましたが、「そもそも社内に見積もりを正しく判断できる人材がいない」という企業も少なくありません。
特に中小企業では情報システム部門が不在であったり、IT担当者が一人しかいない「一人情シス」状態であったりするケースが多く見られます。
このような事情から社内だけでの判断が難しい場合、第三者の専門家やサービスを活用するという選択肢があるので覚えておきましょう。
システム開発のセカンドオピニオンサービスとは
今回のような見積もりやシステム導入・機能の必要性の診断、開発ベンダーの選定サポート、開発プロジェクトの進行確認などについて第三者の客観的な視点から判断・アドバイスするサービスです。
専門的かつ客観的な意見を得ることで開発ベンダーとの情報格差を埋め、より正確な判断が可能になりますから、初めてDXに取り組む企業であれば利用を検討してみるのも良いでしょう。
当社、リトルソフトのDXコンサルティングサービスでも対応可能です。
まとめ〜見積もり内訳の知識・徹底チェックが大切〜

システム開発における成功は、最初の「費用の見積もりチェック」から始まります。 ボストン コンサルティング グループの2020年のレポート「Increasing the Odds of Success in Digital Transformation」によれば、DXの成功率は30%。
厳しい数字ですが、見積もりの段階で費用の妥当性を確認することが、ムダなコストを防ぎ、プロジェクトを成功へと近づける第一歩になります。
次の一歩を、ご一緒に
リトルソフトはコンサルティング力にも自信あり。理想ではなく「今できること」から始めるご提案をいたします。